第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
色あせた箱から出てきたのは、いつも長い白髪を後ろで一つに結び留めているハイリアには、実によく似合いそうなものだった。
「ほら、ちゃーんと、選べたじゃろう? 」
にかにかと金歯を見せながら、白髪交じりの爺さんは笑った。
変なものを選ばされたら、ぶっとばしてやろうと思っていたのに、思いがけない出来事に拍子抜けしてしまって、ジュダルは複雑な気分になりながら、苦笑を浮かべた。
「わぁかったよ、じじい……俺の負けだ。これ、買ってやるからいくらなんだよ? 」
ため息混じりにジュダルは言った。
「カネか? カネなんぞで、払ってもらっては困るのう」
また妙なことを言い始めた爺さんに、ジュダルは顔をしかめた。
「あ? どういうことだよ? タダってわけじゃねーんだろ? 」
「そりゃそうじゃ、ワシは商人じゃからな。お代は、ソレでいただこうかのう」
長い白髭をなでながら爺さんが指さしたのは、ジュダルの髪だった。
「はぁ?! 何言ってんだ! 俺の髪がお代だってか!? ぜってぇーだめだ!! 」
急に慌てふためいたジュダルを見て、老人は目を丸くした。
「はて? 髪くらいで騒ぐとは、呆れた若造じゃのう……。お前さん、その髪飾りにどれほどの価値があるかも知らんじゃろう? 髪で払えるだけ良いと思うがなぁ……」
「そんなもん知るか! 俺の髪はなぁ、生まれてから一回も切ったことがねーんだ! それをあっさり渡せるわけねーだろ! 」
「ほう、そうじゃったか! そりゃ希少な髪じゃのう。一束は欲しいと思ったが、それだけの価値があるならば、少しで良いわい。その一番先に下がっているところから、ほんの少しだけ切り取ってもらおうかのう」
店主の爺さんは、そう言って先程まで座っていた椅子からハサミをとりだすと、その刃先を動かしてみせた。
「ふざけんなっ! なら、これは返す! 」
ジュダルが押しつけようとしてきた銀の小箱を、老人は首を横に振って突き返した。