第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
ハイリアに贈り物なんて、馬鹿馬鹿しい話だ。
豪華にみえるランプも、銀の燭台も、宮廷に暮らしていれば必要がないものだし、ただの盾や剣もすでにあいつには必要がないものだ。
露店の前に陳列している装飾品だって、貧相なものばかりだ。
細工も甘いし、宝石もクズ石だ。こんなつまらない物を、あげてやるくらいならば、宮廷の職人に作らせた方がマシだろう。
小鳥の形をした置物などくれてやるような、可愛げのある部下でもない。
わざわざ男装をしているような奴に、繊細な扇子なんか似合わないし、香水入れなど、絶対に使わない女に決まっている。
結局、何も目につく物なんかないじゃないかと思い、探すことをやめた時、中央に飾られていた金色の丸い机の上に、置かれていた小さな物に、ふと目が惹かれた。
四角い銀の小箱だった。
とくに細工もない、両手で包める程の大きさで、色あせて、光沢も鈍くなっている箱だった。
「おい、じじい。あの箱は何だよ? 」
「ああ、あれか! ちょっと待てのう」
そう言って、店主である爺さんは、ギコギコと揺らしていた椅子から飛び降りて、短い足でひょこひょこと歩いて店の中へと姿を消した。
背が低い爺さんは、すぐにガラクタに囲まれて見えなくなったが、店に並んだ貴金属をがたがた揺らすので、どこにいるのかはよくわかった。
金の机の上に、爺さんが手を伸ばして銀の小箱を取る様子が見えると、また同じように周囲のガラクタを揺らしながら、老人は店の外へと出てきた。
「これじゃろう? お前さんが見つけたのは」
小さな爺さんは、さきほど目に付いた銀の小箱を両手で持っていた。
「ああ、そうだ。で、その中身は何だよ? 」
「ほれ、お前さんが開けてみればいいじゃろう」
老人に差し出された小箱を、ジュダルは受け取って開けてみた。
四角い銀の小箱の中に入っていたのは、銀の髪飾りだった。
紅玉が使うような、かんざしではなく、髪を挟み込んで留める、筒状の髪飾りだ。
真新しい縦長の髪飾りには、月の紋様が描かれていて、縁には深紅の小さな宝石が散りばめられ、見事な細工がされていた。