第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「ふざけてんじゃねーぞ、じじい! おまえ、何者だ!? 」
ジュダルは杖先を、爺さんの喉もとに押し当てた。
「ワシはしがない商人じゃよ。いきり立つな若造。そんなにその娘を奪われたくなければ、手がないわけではないぞい? この店にあるものを買うんじゃよ。それで道は決められるじゃろう」
「てめぇ、俺を怒らせておいて、この店のもんまで売りつけようってのか? 」
「話を聞かんやつじゃのう……。お前さんはもう、誰かさんから聞いたはずじゃよ? お前さんが気にしている白いおなごは、もうじき誕生日なのじゃろう? 贈り物をしてやれと言っておるのじゃ」
老人の白い眉の中に埋もれた青い瞳が、まっすぐとジュダルを見つめた。
昼間、紅玉に全く同じ事を言われたことを思い出し、ジュダルは動揺した。
―― ほんとに、なんなんだ、このじじいは!?
「まあ、焦るな黒き子よ。騙されたと思ってその中から選んでみなさい。必ず、お前さんの助けになるものが見つかるはずじゃよ」
貴金属が並ぶ露店を指さす老人をみて、ジュダルは戸惑いながらも、その喉笛から杖を離した。
「変なもん売りつけやがったら、ただじゃおかねーからな! 」
苛立ちながらも露店へ足を向けたジュダルを見て、老人は歯を見せて笑った。
「変なもんなんぞ、そこにはないわい。勝手にお前さんが選ぶのじゃ」
ジュダルが側を離れるなり、爺さんは再び椅子をギコギコと音をたてて揺らし始めた。
不愉快な音に顔をしかめながら、ジュダルは露店に並ぶ貴金属に目を向けた。
どれもこれもガラクタのようにしか見えない。
奥に並ぶ怪しげな像だの、鏡だの、はたまた天井にぶらさがっている妙なお面だの、どこから拾ってきたかわからないようなものばかりだ。
この中から贈り物を選べという、怪しげな老人の言葉を鵜呑みにするなんて、馬鹿げた話だとは思ったが、ことごとく話してもいないことを当てられただけに、このまま引き下がるのもしゃくだった。
―― そこまで言うなら、ためしてやろうじゃねーか!
勝手に選ぶというのならば、選ばせてみせろと思いながら、ジュダルは店の中を見渡した。