第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
一向に露店の貴金属を売ろうともしない店主が、再び話し始める。
「お前さんが迷っているのは道じゃな。二手の道じゃ。どちらを選ぶかで迷っておる。それはお前さんが大事なものを見つけたからじゃ。
ああ、でもお前さん、まさか気づいておらんのかのう? このままでは、本当に無くしてしまうかもしれないのう……」
変わらず妙なことを言い始めた老人をみて、ジュダルは苛立ちを覚えた。
―― なんなんだよ。結局ワケわかんねーことばっか言いやがって……!
こんな占い師気取りの爺さんに、これ以上関わる気などおきなくて、やっぱりさっさと立ち去ろうとジュダルが体の向きを変えた時、老人が言った言葉が耳に入ってきた。
「白いおなごじゃな。お前さん、その娘が他の者に取られそうで焦っておるんじゃ。確かにその燃えるような髪の男ならば、簡単に得てしまうじゃろうなぁ……」
ジュダルは目を見開いて振り返り、老人が座る椅子の動きを片足で踏み込んで止めると、白いひげが生える喉もとに、鋭い杖を突き立てた。
「おい、じじい! おまえ、どこまで知っている? 」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ! 元気な若造じゃのう! 」
突き立てられた杖を恐れる様子もなく、白髭の爺さんは言った。
「ワシは何も知らんよ。お前さんから見えることを、ただ言っただけじゃ! どうじゃ? 当たっていたじゃろう? 」
得意げに高笑いする食えない爺さんに、ジュダルは顔を引きつらせた。
―― なんなんだ、このじじいは!? なぜハイリアのことがわかった?
宮廷で紅炎に、ハイリアの所属が変わるようなことをほのめかされてから、妙に焦る気持ちになっていたのは事実だった。
しかも、紅炎までが、自分の部下に置いてもいいと言ってきたのだ。
紅炎は欲しいと思ったら、本当に取りにくる奴だ。
煌帝国の第一皇子であるアイツには、権限がある上に、紅炎を認めていない奴なんて、あの国にはいない。紅炎が望めば、ハイリアは簡単に奪われる。
だからこそ、そんなこと許せるはずがなかった。
面白いものを見つけたのは自分だというのに、横から奪われるなんていうことは、誰であっても気に入らなかった。
それを、ワケのわからない怪しい爺さんに、見透かされたと思うと、どうしようもなく腹が立った。