第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
近くでみると、店の迫力はよけいにすごかった。
金属で作られた人の顔した不気味なお面やら、古びて錆びた刀までが、天井からぶら下がっている。
「お前さん、何か買っていかんかい? 」
足を止めていたジュダルに、露店の店主と思われる爺さんが、椅子を揺らしながら言った。
近くで見ると、小びとみたいに背の低い爺さんだった。
白髪が交じりの頭はほとんど禿げていて、その代わりみたいに顎のヒゲはやたらと長かった。
眉毛はどうやって伸びたんだってくらいにふさふさで、隠れた目は開いているのかどうかもよくわからなかった。
「別に買おうと思って、見に来たわけじゃねーんだ」
「そうかい? お前さん、何かを探しにきたようにもみえたんじゃが……」
白いヒゲをいじりながら、爺さんは言った。
「探しもんだぁ? そんなもんしてねーよ」
ジュダルが言うと、爺さんは椅子を揺らしながら、やけに高い声で笑った。
「ふぉっ、ふぉっ! やはりお前さんは、何か探しに来たんじゃよ。ワシの店に来る客は、皆決まってそう言うんじゃ! 」
おかしなことを言い始める老いぼれ爺さんに、ジュダルは顔をしかめた。
「ワケわかんねぇ、じじいだな。ボケてやがんのか? 」
「ボケてなんぞおらんぞ。では、当ててみせようか、お前さんは迷っておるんじゃろう? それに、ひどく焦っておる」
「曖昧な言い方しやがって……、インチキ商売なんかしても売れねーぞ、じじい」
よくある占い手口のような言い方をする爺さんに、呆れながらジュダルは言った。早く買い物をすませようと体の向きを変えたとたん、老人は呼び止めた。
「まあ待て、お前さん。話は最後まで聞くものじゃよ」
相変わらず、ギコギコと音を立てて椅子を揺らしながら、怪しげな爺さんは言った。
「なんだよ、まだあんのか? 言ってみろよ、つまんなかったら行っちまうけどな」
ジュダルは面倒くさそうに言って、変な爺さんに関わるのはこれで最後だと思いながら、向き直った。