第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
街の中は、美味しそうな匂いで溢れかえっていた。
屋台には、水餃子や小龍包、揚げ団子、焼きめし、スープなどが並び、どこもお祝いを楽しむ鮮やかな着物を着た大勢の人達で賑わっている。
食べ歩きながら露店をみて回っている街の人から目を離し、天井を見上げて見れば、一面赤い光に覆われた。
淡い光が灯った丸い提灯と、赤い鞠のような飾りが、屋根を作るように広がって、いくつも垂れ下がっているのだ。
夜空に浮かぶその景色を見つめていると、不思議と高揚した気分になってくる。祭り独特の活気に酔っているのかもしれない。
ハイリアが赤い光に目を奪われていると、ふいに手を引かれた。
「おい、ぼーっとしてんな。はぐれても知らねーぞ! 」
さきほど買った肉まんじゅうを頬張りながら、ジュダルが言った。
「ああ、ごめん。あんまり綺麗だったから」
慌てて歩調を早めてジュダルに追いつくと、彼はとても変なものでも見るような目で、ハイリアを見つめた。
「おかしな奴だな。はじめて祭りを見たような顔しやがって」
「ああ……、でもそうかも。あんまりこういうお祭り、ちゃんと見た覚えないんだ」
「うそだろ!? 本気で言ってんのか? 」
「だって、キャラバンで行く街は、いつも決まっているわけじゃなかったし、祭りがあっても商品を売る側だったから、ゆっくり露店を見たことないもの」
それが当たり前だったし、慣れてしまっていたからなんとも思わなかったけれど、よく考えたらこんなに街をのんびり歩いて、露店を楽しむなんてことしたことがない。
「ありえねぇー……。おまえ、ぜってぇー損してるぜ」
ジュダルが哀れむような目で見ていた。
「そうかな……? 」
「そうだろ! だいたいおまえはよぉ、いつもきっちりしすぎてて、手ぇ抜くってことしねーんだよな。俺の脇にいても、あっちこっちでせかせかと仕事探しだすしよー。もう少し、仕事以外のこともやってみたらどうだ? 」
それは、あなたがサボっているからと、つっこみを入れたくもなったけれど、ジュダルがあまりにも一生懸命に説教してきたから、可笑しくてハイリアは吹きだしてしまった。