第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「だって……、宮廷の中からは何も見えなかったし……」
早く宮廷の暮らしに慣れなければと思ったし、街のことに目を向けることなんて忘れていた。
「おまえ、外へ出掛けようともしなかったもんな。いつもせかせか動き回って、険しい表情ばっかしやがって。ずっと閉じこもってれば、何も見えねーのも当たり前だろ! 」
ため息混じりにジュダルが言った。
まさか、ジュダルに指摘されるとは思わなかったが、そんなに慌ただしいかんじに見えていたのだろうか。
しかも、そんなにきつい顔をしていたとは心外だった。
でも、確かに毎日、何かに必死で鏡を見ていた覚えもあまりなかった。
―― あれ、私……。もしかして、周りにはそういう風に見えてたの?
官史が冷たく見えたのも、嫌な噂を流されたのも、もしかして、周りのせいだけじゃなくて、自分も知らず知らずのうちに、相手に嫌な態度をしていたのだろうか。
余裕はなかったし、無意識に感じが悪いことをしてなかったとは言えない。
「ほら、まぁーたそういう顔してんじゃねーよ! 今日は祭りなんだぜ? 」
気づけばジュダルが、顔を覗きこんでいた。
わりと整っている顔が思いのほか近くにあって、どきりとした。
合わさった赤い瞳に動揺し、どうにも気まずくなって目を逸らしたとたん、両頬に違和感が走った。
何かと思えば、彼に頬をつままれ、横にびよ~んと伸ばされていた。
「おっもしれぇー顔! おまえはこういう顔の方が似合うぜ! 」
頬を引き、笑いはじめたジュダルの手を、ハイリアは慌てて振り払った。
「ちょっと、何するのよ!! 」
可笑しそうにけらけらと笑うジュダルに苛立ちを覚えながら、ハイリアは顔を赤く染め上げた。
「ほんと、おまえは見てて飽きねーな! 」
楽しげな光を瞳に宿しながら、ジュダルがそう言って、ハイリアの手を引いた。