第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
無言で宮廷内の廊下を突き進むジュダルの後ろを、ハイリアも黙ってついて歩いた。
廊下で下官とすれ違うたびに、下官たちは神官に向かって膝をつき、敬意を表す礼をしていった。
ジュダルは気にする様子もなく歩いていくが、どうもこの状況には、まだ慣れることができずにいる。
武官であり、神官の側近という立場ということで、一人でいても下官に礼をされる機会は多いのだが、どうしてもこの恭しい礼を見る度に、顔を上げて欲しい衝動にかられてしまうからだ。
自分はただの一般人だ。それが金属器を得て、ジュダルの手をとっただけで、ここまで生活が変わってしまったけれど、自分が欲しいのは、権力ではない。
ただ、大切な人を守れて、自分が望む未来を掴む力が欲しいだけだった。
それなのに、なぜか自分が望んでいたものとは、違う方向へ流されているような気がする。
敬礼を見る度に、そのことを突きつけられている気がして、複雑な気分になるのだ。
―― この国に来たことは、間違ってないだろうか……。
心が迷う中、ジュダルは長い廊下を抜けて、正門から宮廷の外へと出てしまった。
彼がわざわざ正門から外にでるなんて珍しいことだった。
普段は出掛ける際、決まっていると言っていいほど、宮廷の中から魔法アイテムである空飛ぶ絨毯で飛び立っていくからだ。
いつの間にか、夕日は沈み、空は暗やんで紫がかっていた。
どこへ向かっているのだろうか。いつもは邪魔だからと宮廷に自分を置いていく癖に、今日は逆について来いと言う。
足取りも速いし、いったい何なのだろう。
街へと続く階段をジュダルが降り始めた時、城下に広がる色鮮やかな灯りが目に入ってきて、ハイリアは目を奪われた。
煌の街並みを、紅や朱、黄色といった柔らかな暖色の光が包んでいた。
街の商店は、いつもより鮮やかな装飾がされ、夜になるというのに活気はさらに高まって、賑わいをみせている。
広場では、赤い獅子や巨大な龍が舞い踊っているのが見えた。
「え、お祭り……? 」
「そうだよ。知らなかったのか? 」
驚き固まっているハイリアを、ジュダルが呆れた様子で振り返り見ていた。