第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「なーに怒ってんの~? ハイリアちゃ~ん」
「紅覇様!? 」
気づけば、第三皇子である練紅覇が腕にしがみついていて、ハイリアは困惑した。
背丈は同じくらいだが、年は二つくらい年上のこの皇子は、どうも馴れ馴れしく、毎回、自分の姿を見かけるたびにべたべたとくっついてくるから困ってしまう。
「また喧嘩してるの~? 二人ともほんと仲良しだよねぇ~! 」
紅覇は、戸惑うハイリアと、顔をしかめているジュダルを、それぞれのぞき込みながら、にんまりと笑顔を浮かべた。
「仲良しじゃないですよ。ジュダルがあんまり勝手だから! 」
「ああ? 勝手なのはおまえだろ! 側近のくせに、いちいち楯ついてきてよー! 」
じろりと睨みをきかせたのが気に入らなかったようで、ジュダルはすぐさま噛みついてきた。
「まぁ~、二人とも落ち着きなって。だめだよ~、ジュダルく~ん。あんまりハイリアちゃんをいじめるなら、僕がもらっちゃうからねぇ~」
にっこりと微笑みながら、紅覇がハイリアの腕を引き寄せた。
どこまでが本気なのかわからないが、稽古の相手をするたびに、紅覇から自分の部隊に入らないかと、ハイリアは誘いを受けている。
今のところは断ってはいるけれど、ジュダルのきまぐれに毎日付き合わされていると、心変わりしたくもなってきていた。
「ばーか、あげるかよ! これは俺がもらったもんなんだ。おまえ、少し離れろって! 」
ジュダルは苛立った様子で、紅覇の手を外させると、ハイリアの腕を掴んで逆に自分側へと引き寄せた。
まるで物のような扱いのされようである。
「あー、ジュダルくんが嫉妬してる~! 」
「ちげぇよ、今、急いでんだ! 用がねーなら、後にしろよ! 」
「そうだったの~? ごめんね~、じゃー、僕も炎兄に呼ばれてるしぃ、また後でねぇ~! 」
こちらに手を振りながら、紅覇は待っていた三人の従者の元へと駆けていった。それを最後まで見送る前に、ジュダルに無理矢理、腕を引かれた。
「全くよぉ、おまえのせいで時間くっちまったじゃねーか! 早く行くぞ! 」
「はいはい、わかりましたよ。 『神、官、殿』! 」
わざとジュダルが嫌がる呼び方をしてやると、苛立った舌打ちが聞こえてきた。