第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「ほーら、終わったぜ! 」
得意げにジュダルは笑顔を浮かべていた。
「終わったって……、読んでもいないのに……」
印を押す場所だってずれている。
「いいんだよ! ぐずぐずしてねーで行くぞ! 」
強引に腕を引っぱられ、ハイリアは椅子ごと後ろへひっくり返りそうになった。
「ちょっと待ってジュダル! この書類、届けないと! 」
「あー、うるせぇーな! んなもん、メガネにでも届ければ勝手にやるだろうよ」
顔をしかめたジュダルがひょいと杖を振り、多量の書類が浮かんで部屋から飛び出していったのが見えて、ハイリアは青ざめた。
ジュダルがメガネと呼んでいるのは、紅玉の従者である夏黄文だ。
「な、なにやってんのー!? 」
「おまえの仕事は、俺の側近だろ? ぐちぐち言ってねーで、俺の言うとおりにしてりゃーいいんだよ! 」
力任せに腕を引かれ、椅子から落ちてずりずりと部屋の外まで引きずられた。
「わかった、わかったから、ちょっと離して! ねぇ、ジュダル! ほんとに、痛い……、痛いってば!! 」
ハイリアが痛みで声を発すると、ジュダルはようやく乱暴に手を放してくれた。
腕にはくっきりと彼の手形がついていた。
毎日、毎日この気まぐれな神官を相手にするたびに、生傷が増えていく。
これからも振り回されながら、コイツの世話をしていかないといけないのかと思うと、苛立ちが募った。
「もう、信じられない! また痕が残ったらどうするのよ!? 」
「そんくらいでギャーギャーうるせぇな! おまえなんか、ただでさえ色味がねぇーんだから、少しくらい赤味がついてる方がちょうどいいじゃねーか」
「なんですってー!! 」
立ち上がってジュダルを睨み付けたその時、腕にするりと何かが絡みついてきた。