第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
イライラしながら印を押していた後ろで、扉が乱暴に開かれた音がして、ハイリアは体をびくりと震わせた。
「あー!! やっと見つけたぜ、シロ! 朝からいねぇーと思ったら、こんなところにいたのかよ……。おまえ、いったい何やってんだー? 」
後ろからのんきな声が響いてきて、ハイリアはじろりと後ろを振り返った。
書類を溜めた張本人であるジュダルが、人の気苦労も知らずに、ずかずかと部屋に入ってきていて、苛立ちが募った。
「なーにやってんだじゃないわよ! これ全部、元々あなたの仕事なんだから少しは手伝ってよ! 」
「ああ? 知るかよ、そんな紙きれ一回も見たことねーもん。俺の仕事なのか? 」
「一回も見たことがないって、おかしいでしょ! 今までいったいどうやって仕事してきたの!? 」
これだけの書簡を、全く目にしたことがないなんて、あり得ない話だ。
「さあ? そういうのは放っておけば、勝手に片付いてたと思うぜ? 」
「勝手に、ねぇ……」
それは絶対に、誰かが代わりに処理をしてくれていたのだろう。
まあ、その官史も、自分の配属と共に仕事を放棄したようだけれど。
再び机に向かい、ため息を吐きながら、書類に印を押し始めたハイリアの肩に、ジュダルがのしかかるように腕を伸ばして絡んできた。
「ハイリアよぉ。こんなつまんねーこと続けてねぇで、外に行こうぜ! 」
重いし、とてもうっとうしかった。
「だめよ。今日中にこの書類を早く終わらせないと! 」
「じゃー、早く終わればいいんだな? 」
ジュダルはそう言って懐から杖を出すと、ハイリアの前に広がる書簡めがけて杖を振るった。
積み重なっている書類の山が宙に浮かび上がり、ハイリアの手から印章が抜き出ていったとたん、ものすごい速さで、書簡に印を押す流れ作業が、機械のように机の上で展開された。
あまりの速さに目を丸くした。
あっという間に書類に印が押し終わり、紙は独りでに元あった場所で積み重なった。机の上には、動かなくなった印章が落ち、カラコロと音をたてて転がった。