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【マギ*】 暁の月桂

第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕


おかしいとは思っていたのだ。

文官の書庫整理をしている際に、皇子たちの部屋に書籍や書簡を運ぶことも多かった。

どうも書庫は皇子たちそれぞれの管轄があるようで、運ぶ場所も分かれているようだった。帝国唯一の神官であるジュダルに管轄の部屋がないはずがない。

それなのに、官吏の手伝いをしていても、ジュダルに関する書簡は全く見当たらなかった。

どうも自分は行かされず、足を踏み入れていない区域があると勘付き始めて、夜な夜な自分の部屋で、仕事で行かされた部屋を地図で囲んでみると、やはり見事に行ったことがない空白地が出てきたのである。

そして、今日、早朝からその辺りの部屋を探ってみたところ、見知らぬ一室を見つけたのである。

開かずの間と化していた小さな書籍・書簡庫は、使われた痕跡がほとんどなく、中にある棚には埃が積もり、書籍もずらした跡さえなかった。

埃臭いその部屋の奥には、事務用と思われる机と椅子が一つだけ置いてあり、机の上には膨大な書類の山が出来ていた。

その積み重なっている書類だけがやけに真新しく、まさかと思い、手に取った書類の宛名を見て青ざめて、今に至るわけである。

恐らく、ここがジュダルの管轄する書庫なのだ。

今までこの場所に気づけなかった自分もいけないのだが、誰も触れた跡がないところをみると、ジュダルもこの場所に一回も来ていないのだろう。

ほとんどが形式上の書簡ではあったが、ジュダルがそれなりの地位であるがために、手紙の相手も上級官史ばかりだった。中には陛下や皇子の名前までがあり、これが一ヶ月も放置されていたのかと思うと恐ろしかった。

書簡の処理については、文官の手伝いをしていたおかげで、神官が持つ印章さえあればどうにかできることがわかっていた。

かろうじて、この部屋の机の中に印章だけは発見できたため、こうして急いで処理をしているわけである。

ジュダルの側仕えらしい官史たちに仕事内容を問うたときに、妙な笑顔を浮かべていた理由が、今日はっきりとわかった。

ほんとに腹が立つ嫌がらせをしてくれたものだ。

うすうすは感づいていたが、神官の側近なんていうのは、名称が見栄えするだけで、ただの雑用係だ。
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