第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
そもそも、神官の仕事内容がよくわからなかったのだ。
仕事については、神官に聞けとのことだったのに、神官たるジュダル本人に聞けば、「わかんねぇけど、俺についてればいいんじゃねーの? 」というあり得ない返答がきたのだ。
慌てて周囲の官史に聞いて回っても皆、妙な笑顔を浮かべるだけで何も教えてくれなかった。
突如、宮廷入りしたせいで、官史の多くは自分のことを煙たがっているのだ。
宮廷でよく話しているのが皇子たちなのもあって、「流浪人のくせに皇女気取り」だとか、「宮中を新参者が牛耳ろうと暗躍している」だとか、あらぬ噂がたくさん流れているのも知っている。
当然のように無視もされるわ、通り過ぎ際に嫌みを言われたりなんてこともざらである。
最近は、少しは減ってきたようにも感じるけれど、まだまだ宮廷に味方が少ないのは確かだ。
嫌みな官吏に会う度に、気分が下がっていくのは、今も変わらない。
誰も教えてくれぬならば、自分で仕事を見つけてやるつもりだった。
だから、ジュダルの側について、神官の仕事たるものを側で観察してきたのだ。
しかし、ジュダルはといえば、毎日、ふらふらと宮廷内をほっつき歩いて、庭に生えている木々から果物を勝手にとっては食べたり、皇帝陛下のご子息をからかったり、武官の稽古場で相手を見つけては魔法を乱射したり、気まぐれに出掛けて姿を消したり、屋根で寝ていたり……。
本当に彼が役職を得ているのかと疑いたくなるような生活で、側にいても混乱するばかりだった。
全くもって神官の仕事はわからないし、何度仕事はないのかと本人に聞いても、「うるせぇー、勝手にしろ! 」の一言で終わらされてしまって、やれることなど何もなかった。
仕方なく、暇を見つけては色んな官吏たちの仕事部屋に出向き、仕事を得て手伝ってきたが、そこから学べたのは一介の官吏としての務めだ。
ジュダルの補佐官として学べるものはあっても、役立たせるための彼の仕事内容がわからなければ、発揮できないものばかりだった。
結局、収穫といえば、宮廷の部屋を行き来することが多かったおかげで、広い宮廷の構造を覚えるのに役立ったくらいだろうか。
それで、この部屋を偶然見つけるに至ったわけだ。