第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
煌帝国に入って、気づけば一ヶ月が過ぎていた。
ジュダルに連れてこられたのは煌の宮廷で、彼が帝国の神官だったと知って驚いたのが、つい先日のように感じられるのに、時間がたつのはとても早い。
宮廷の生活は、広すぎる部屋の連続や、豪勢な装飾やら食事なんかの連発で、一向に慣れはしないけれど、いくらかマシにはなってきている。
だいぶ、宮廷内で道に迷わなくなったし、自分の部屋でなら少し落ち着けるようになった。
金属器を手に入れたおかげで、最近、武官にも任命されてしまい、同じ金属器の使い手である皇子たちと話す機会が多い現状は、とても恐れ多いのだけれど、どうにか稽古の間くらいなら会話も緊張しなくはなってきた。
金属器である腕輪の扱いもわかってきたし、毎日稽古が続くのは嫌いじゃない。
落ち着かない気持ちが和らいで、気が紛れるからだ。
毎回、金属器使いや、その眷属たちに、相手をしろとせがまれるのは大変だけれど、今までやってきた事と、変わりはない生活だと思えば、苦ではなかった。
苦労があるとすれば、もっと違うことなのだ。
机の上に堆積している書類の山を見上げて、ため息がでた。
埃をかぶった本に囲まれている宮廷の部屋の一室で、ハイリアは積み重なった書面に囲まれながら、机の上でひたすら印を押していた。
なんでこんなに溜め込んだのだろうか。この処理のせいで、今朝からこの部屋にずっと缶詰なのだ。
窓の外はすっかり夕焼けだし、まだまだある書類を見ていると、悲しくなってくる。
すべて、ジュダル宛の書簡だ。
自分が側近として配属されてから、溜まりまくったらしい一ヶ月分の書簡がここにある。
今朝、たまたま見つけた部屋で発見してしまったのだ。
『我が帝国の『マギ』たる神官の支えとなり、力を尽くせよ』と皇帝陛下に任命を受け、神官の側近なんていう役職となり、煌帝国に入ってからずっと彼の下に仕えてきた。
けれども、はっきり言って今まで、側近の仕事らしいことをした覚えはない。
もしかしたら、今日が一番、それらしいことをしているのかもしれないが。