第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「なんでこんなに動き回ってんだよ、あいつ……」
「神官の仕事が一向にわからぬから、側近たる自分が何をすべきか考えていると言っていた。おまえの部下は実に優秀だな。俺が与えた仕事もそつなくこなす。
もてあましているのならば、仕える主も変えた方がいいのではないか? 」
「なんだと!? 」
「おまえは何も知らぬようだから、宮廷で今、彼女がどう見られているかも知らんだろう?
ハイリアを新参者と嫌う者はまだ多いが、彼女の働きに気づいた者たちは、彼女を認め始めているのだ。現に紅覇は、彼女を部隊にほしいと申し出てきた。返事はハイリアに任せてある。
飽き捨てるのは、おまえの方ではなく、彼女の方かもしれないということだ」
押し黙るジュダルに紅炎は続けた。
「ハイリアは、確かにおまえが連れてきた金属器使いだ。身元もわからぬ、出生もはっきりしない流浪の民だった。
ゆえに、始めはおまえの下に預けていたが、すでに彼女は煌帝国の武官として地位を得た。今後、誰に属しても不思議ではないことを胸に刻んでおけ。
部下のこともわからぬ上官に振り回されているくらいならば、俺が拾ってやっても良いと思っている」
「紅炎、てめぇ! 」
ぎりぎりと歯を食い締めて睨み付けてくるジュダルを見て、紅炎はにやりと口元をつりあげて笑った。
「悔しいと感じるのならば、少しはハイリアを知る努力をしろ。
おまえが『マギ』として、神官として、我が国に貢献していることは皆が知っている。だが、上官として務めができぬのであれば、部下など持たない方が良いのだ。
まあ、おまえのそういう面白い一面が見られるなら、彼女をおまえの下に配属させたのも、あながち間違いではなかったかもしれんがな」
「なんだよ! 喧嘩売ってんのか? 」
「そういきり立つな。ハイリアを捜しているのだろう?
姿をみせていないのならば、どこかへこもっているのだ。いるなら文官の書庫か、おまえの管轄下にある書簡庫じゃないのか? 」
「……俺の管轄の書簡庫? どこだよそれ? 」
全く知らない様子のジュダルの反応をみて、紅炎は呆れているようだった。