第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「おまえも、知らねーうちに俺の部下を使ってるみてぇじゃねーか……。あれは一応、俺がもらったもんのはずだぜ? 」
気に入らない様子で苛立っているジュダルに気づき、紅炎は読んでいた書物を机に置いた。
普段は向けられることのないマギの敵意を感じ取って、紅炎は笑みを浮かべた。
「確かに、おまえが拾い、おまえが連れてきた、おまえの部下だ。だが、その部下の方から、手伝いたいと言ってきたから仕事をやっただけだ。
おまえの仕事以外させたくないのならば、本人に言えばいいだろう? 」
「あいつは、俺の言うことなんか聞きやしねーんだよ! 」
「ならば、ちゃんと躾けておけ。取られたくなければ、印でもつけるのだな」
「……わかったよ! で、ハイリアはここの他にどこによく行くんだ? 」
説教されたことにイライラとしながら言ったジュダルを、紅炎はその細い目を見開いてみつめていた。
「……なんだよ? 」
「側仕えのことを、おまえは何も知らないのだな……」
「う、うるせぇなー! いいから、早く教えろって! 」
図星をつかれたせいか、少し顔を赤らめて焦るジュダルをみて、紅炎は面白そうに口元をつり上げた。
「そう焦るな。一つ、一つ場所をあたるとなると、数はかなりある。紙に書いてやるから少し待て」
机にあった紙に、紅炎は筆でさらさらと行き先を書いてやると、ジュダルにその紙を渡した。
手に取った紙に書かれた文字をみて、ジュダルは青ざめた。
「おい……紅炎、これ本気で言ってるのか? 」
「嘘を書いてどうする? 全部、彼女がよく行く場所だ」
紙に書かれていたのは、さきほど訪れた武官の稽古場の他に、各金属器使いたちである皇子・皇女の部屋すべて、軍の将官室すべて、文官が働く書庫すべてと、普段、宮廷内の中枢で働く官史が関わる仕事場すべてだった。
この場所すべてを普通に捜していたら、日などすぐに暮れてしまう。