第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「あのね、ジュダルちゃん! ハイリアちゃんのことで、お願いがあるのよぉ!
ジュダルちゃんは、ハイリアちゃんの上役なわけじゃない? だから、そのぉ……、もうすぐ……ちゃ……びを……」
紅玉は、もじもじとしながら、声をくぐもらせた。
「なんだよ、はっきり言えよ! 」
「……っ! だから、もうすぐハイリアちゃんのお誕生日があるから、祝ってあげて欲しいの!! 」
突然、稽古場に大きく響き渡った紅玉の声に、ジュダルは呆然とした。
剣をとり戦っていた兵士でさえ、その声に驚き、紅玉に視線を移していた。
その様子に気づいた紅玉は、顔を真っ赤に染め上げた。
「やだ、私ったら、はしたない……」
恥ずかしそうに顔を隠して座り込んだ紅玉に向かって、ジュダルは呆れた様子で言った。
「何、でっかい声出してんだよ……。だいたい、なんで俺があいつの誕生日なんか祝ってやらなきゃいけねーんだ……」
誕生日なんて、ジュダルにとってはただの過去の産物でしかなかった。
覚えもないことなど、祝う必要性も感じないし、祝って欲しいという気持ちでさえ、彼にはよくわからないものだった。
「だって、ジュダルちゃんは、ハイリアちゃんを助けて、煌帝国に連れてきてくれた人だもの。ジュダルちゃんに誕生日を祝ってもらえたら、きっと、ハイリアちゃんも元気を出してくれると思うのよぉ……」
「はぁ? あいつは勝手に俺についてきただけだぜ? 」
「そんなこと言わないで、祝ってあげてちょうだいよぉ、ジュダルちゃん! 」
うるうると瞳を潤ませる紅玉を見て、ジュダルは面倒なことになったと、顔を引きつらせた。
「おい、こんなところで泣くんじゃねーぞ! 」
「泣かないわよぉ! でも、ほんとにお願い、ジュダルちゃん……。ハイリアちゃんの暗い顔、これ以上みたくないのよぉ!
今日は街でお祭りもあるみたいだし、ハイリアちゃんに何かお祝いの品でも贈って、誕生日を祝ってあげたら、きっと喜んでくれるわぁ」
泣き出しそうな紅玉を見て、おろおろとする夏黄文を前に、ジュダルは『お祭り』という言葉を聞いて、にんまりと笑みと浮かべた。