第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「騒ぐんじゃねーよ! 落ちてーのか? 」
「なんで!? 私……、死んでない?! 」
「死ぬわけねーだろ! まさか、俺が助けてやったのに忘れたってのか?! 」
苛立つジュダルの声を聞きながら、ハイリアは身に降りかかった温かな光を思い出した。
そういえば、いつの間にか、全く動かなかった体が動いている。
はっとして、手足を見れば、皮膚に出ていた赤い斑点が全て消えていた。
痛みもなければ、痺れもなく、息苦しさや悪寒もない。足の裏にできたはずの火傷さえ無くなっていた。
「……あなたが治してくれたの? 」
ただ驚くハイリアをみて、ジュダルはとても不服そうな表情をしていた。
「そうだって言ってるだろうが! おまえよぉ、ほんとに何にも覚えてねーのか? 少しは感謝して欲しいぜ。死にかけのところ魔法で救うなんて、俺ぐらいにしかできない芸当なんだぜー? 」
そういえば、ジュダルは魔法使いだと言っていた。
大蛇を一撃で倒し、毒で死にかけた自分を救ったアレが、彼の魔法だったのだろう。
「あ、ありがとうございます……」
不機嫌なジュダルに、会釈をしてお礼を言いながらも、助かったという実感はあまりなかった。
赤い絨毯は、ひたすらどこかへ向かっている。
下に広がる白い砂丘は、キャラバンで越えてきた中央砂漠だろうか。もう、あの村はどこにも見えない。
「あの……、どこへ向かっているんですか? 」
「ああ? 煌に決まってんだろ」
「煌帝国……」
やっぱりキャラバンで来た道を戻っているのだ。
助けてもらった身の上、強くは言えないが、煌に戻ったって知り合いは誰もいない。
「なんだよ、気に入らねーのか? 」
黙り込んだハイリアを見て、ジュダルは顔をしかめていた。
「すみません……そういうわけじゃ……。いいんです、どこに行っても同じですから……」
一人、生き残ったのだ。どこに行ったって変わらない。
ムトたちは帰ってこない。もう二度と、あの場所へは帰れないのだ。
じんわりと涙が浮かんでいた。