第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
今にも泣きそうな顔をしているハイリアを見て、ジュダルは大きなため息をついた。
「おいおい、いちいち面倒くせー奴だな……。こんなところで、めそめそ泣いたりするんじゃねーぞ。 おまえには、せっかくでっけぇ力があるってのに、みっともねーだろ」
「泣きませんよ! でも、力なんて私には何もないです。いつも誰かに守られてばかりで、何もできなかったんだから! 」
唇を噛みしめて、ハイリアは溢れそうになる涙をとどめた。
悔しくてたまらなかった。いつも誰かに奪われるのを見ていただけだ。
故郷を襲ったあの人からも、あの村を襲った奇怪な化け物からも、誰一人守れなかった。
何一つできなかった自分が許せなくて、腹立たしかった。
湧き上がる怒りの激情に駆られるハイリアをみて、ジュダルは笑みを浮かべていた。
「ははっ! おまえ、やっぱり見込みがあるよ。マゴイといい、その気構え、気に入ったぜ! 」
ジュダルはそう言って、ハイリアの前に手を差しだした。
「シロ! おまえがその運命を変えたいと願うなら、俺が手を貸してやる! 」
「運命を変える? 」
「おまえが望む方向へ、運命なんてねじ曲げちまえばいいんだ! 力を得たいなら、煌帝国で得ればいい! 怒りを覚えるものがあれば打ち倒せばいい! 俺に見せてみろよ! 」
変えられるだろうか、もう二度と大切なものを失わないために。
手を差し出す漆黒の少年は、不敵な笑みを浮かべていた。
その側を飛び交う彼の闇のルフは、すべてをのみこんでしまいそうだったけれど、ハイリアはそこに確かに光をみた。
「変えたい! 私はもう何も失いたくない! 」
ジュダルの手を掴んだ瞬間、視界は黒く覆われた。
彼のルフが生み出す深い闇に包まれて、それがとても恐ろしくも感じたけれど、彼の手がとても温かかったから、自然と不安は和らいで消えていった。