第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「まぎ? あなたの名前ですか? 」
「はあ? なんで『マギ』を知らねぇー奴が、こんなダンジョンにいんだよ!? 俺の名前は、ジュダルだ。『マギ』っていうのは、創世の魔法使いのことだろうが! 」
「……ダンジョン? 創世の魔法使い? 」
ジュダルという少年が、ハイリアが言葉を発するごとに苛立っていた。
『マギ』を知らなかったことが、よほど不服だったようで表情が険しい。
そんなに恐い顔をしなくてもいいのにと思っていた時、急に目の前にいる、ジュダルの姿が大きく歪んだ。
急激に眩暈が起こって、体が前のめりに倒れ込んだのだ。
地面に倒れ込んだ自分を、ジュダルが顔をしかめて見下ろしているのが、ぼんやりと見えた。
目が霞んできてよく見えない。なんだかとても寒い。
せっかく助けてもらったのに、もうすぐ彼とも会えなくなりそうだ。
こんなことなら、助けてくれないほうがよかった。
助けてもらったせいで、生きたいと思ってしまった。
今更、死ぬのが恐い。
本当は生きていたい。だって、ムトと約束したじゃないか。
「……ごめんなさい」
頬を涙が伝っていった。
泣き出したハイリアを見て、ジュダルは眉間にしわを寄せた。
「アホか、勝手に死んだ気でいるんじゃねーよ! 」
そう言って、懐から取り出した赤い石のついた杖を、自分へと向けた。
「『マギ』っていうのはな、最強の魔法使いなんだ。おまえが思っているよりも、ずっとすげー魔法使いなんだからな! 」
ジュダルの杖先から、淡い光がハイリアへと降りかかった。
力の入らない体に、じんわりと広がるその光は、柔らかくて、とても温かかった。
なんだか急に眠くなってきて、ハイリアは目を閉じた。
「そうだ、さっさと寝ちまえばいい。また王候補に死なれちゃ迷惑だからな」
ジュダルが不思議なことを言っているのを聞きながら、ハイリアは心地良い眠りの中へ身を投じた。