第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
突如降り注いだ、巨大な氷の槍が、ハイリアを呑み込もうとしていた大蛇の体を突き刺したのだ。
いくつもの氷槍によって大蛇はなぎ倒され、地面に串刺しになった。
目を見張る中、氷槍は突き刺さった場所から更に凍りだした。パキパキと音をたて、大蛇の身を氷で覆っていく。
呆然とするハイリアの目の前で、大蛇はあっという間に凍り付いてしまった。その上に悠々と空から降り立ったのは、漆黒の少年だった。
黒く長い三つ編みをした少年の赤い瞳が、自分を見下ろしている。
真っ黒なルフに囲まれた、黒い太陽のようなその人は、ハイリアを見るなり面白そうに口角をつり上げて笑った。
「おまえ、おもしれぇーもん持ってるな。 俺と組めよ! 」
現れるなり、手を差しだした少年を見て、ハイリアはワケがわからなくてぽかんとした。
「なんで……、助かったの……? 」
「俺が手を貸してやったんだ。当たり前だろ? いいからさっさと手を出せって! 」
いつまで待たせる気かと、苛立つ少年をみて、ハイリアは急いで手を伸ばそうとした。
けれど、腕は全く上がらなくて、体がもう動かないということを思い出した。
そうだ、自分には毒が回っているのだった。もう手も、足も感覚がない。妙な寒気もするし、少し息苦しい。恐らく、あまり時間がない。
手を差し伸べられて、助けられたことに希望を見いだしてしまったせいだろうか。
助からないということがわかった瞬間、心が握りつぶされたようで苦しかった。
ハイリアは、その気持ちを押し込めて、目の前の少年に向き合った。
「ごめんなさい。私、毒のせいで体が動かないの……きっと長くない。だから、あなただけでも、この場所から逃げてください」
ひどく落ち着いた態度で言っていた。
自分が助からないのなら、せめて彼だけでも不可思議な洞穴の外へ出て欲しかった。
「ああ? 毒で、もうダメだってか? 何ふざけたこといってやがる」
相手を思っての言葉だったのに、なぜか少年は、ますます苛立った様子を見せた。
「俺は『マギ』だ! そこら辺にいる奴らと一緒にするんじゃねーよ! 」