第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「ひどいよ……。もう一人にはしないって言ったじゃないか……」
故郷を失って助けられた夜、ムトは言ってくれた。もう一人にはさせないと。
あの言葉にどれだけ救われたか。
なのに、また一人ぼっちになってしまうじゃないか。
「一人じゃないさ。どこへ行こうと、おまえのココに俺たちはいるさ」
ムトが自分の胸を叩き言った。
「それとも、おまえは俺たちがいなきゃ何もできないのか? 俺たちはそんなヤワな人間にお前を育てた覚えはない。そうだろ、ハイリア? 」
ぼろぼろのくせに、わざと挑発的な態度をしながら笑顔を浮かべるムトを見て、ハイリアは唇を噛みしめながら頷いた。
「そうだ。それでこそ、俺たちの弟子だ。 生きろ、ハイリア! 」
ムトはそう言って、ハイリアの背中を押すと、燃え上がる村の集落へと駆けだしていった。
「……っ、ムト!!」
泣き出すのを必死に堪えて呼んだ声に、ムトは一度だけ振り返って笑った。
いつものムトの笑顔だった。
だらしなくて、どうしようもない癖に、みんなに慕われて、強くて優しい、いつものムトだった。
双剣を持ち、瓦礫の奥へ消えていったムトの背中を見て、溢れ出しそうになった涙を、ハイリアは強く握った拳に爪をたてて止めた。
そのまま遺跡に向かい合う。
奥の林を守るように存在している遺跡は、白い柱に囲まれていた。
中央には獅子が祀られた二体の巨像が飾られていて、その奥に石造りの祠がある。
祠の裏側は高い柵があり、とても登れるような感じではない。林に入るには、あの祠を通って行くしかないようだ。