第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「悪いな、服を汚したな」
傷のことなんか気にする様子もなく、ムトは笑っていた。
「ムト……、その怪我……」
「俺のことは気にするな。林に入ったら、振り返らずにそのまま走れ! 」
遺跡の奥に広がる林を指さしながら、ムトは言った。
「気にするなって……。ねぇ、ムトも一緒に行こうよ! 」
ハイリアの言葉に、ムトは首を横に振った。
「悪いな、あの化け物は、放っておけない。目に入るものはすべて壊そうとする。近くの町にでも行かれたら大変だ。俺が仕留める! 」
「やっつけるって、何言ってるの!? ムトは大怪我してるじゃないか! 」
「そうだな、きっと長くはもたない。でも、だからこそ全力で打ち込んでも大丈夫ってことだろう? 」
その言葉を聞いてわかった。
ムトは命を犠牲にして倒す気なのだ。
「何、言ってるの!? 駄目だよ! ジファールが助けてくれた意味がないじゃない!! 」
ハイリアが声を張り上げた時、瓦礫が連なる集落から大きな雄叫びが響いてきた。声が近いような気がする。
「ほーらな! あいつはしつこいみたいだ。俺がやっつけておくから、おまえは安心して逃げろ! ジファールが助けたかったのだって、ハイリア、おまえなんだ。おまえが生きなきゃ意味がないんだ! 」
「ムト……」
再び泣き出してしまいそうなハイリアを、ムトは力強く抱きしめた。
「悪いな、おまえのことをずっと側で見守ってやりたかったが、許してくれ。だが、おまえだけは絶対に守り抜く! おまえが生きることが、みんなの願いだ。だから逃げると約束しろ! 」