第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
村の奥地にあった民家は、どれも崩れ落ちていた。
かろうじて原形をとどめている家には、炎が燃え移り、赤い情景を作り出している。
「奥に遺跡があるようだった。裏には林があった。おまえはそこを隠れて行き、街まで逃げろ! 」
ムトが走りながらそう言った瞬間、突然、辺りが青白く光り、大きな爆発音が響き渡った。
爆風が巻き起こり、ハイリアの白い髪を大きくなびかせた。赤い炎が激しく揺れ動き、勢いよく飛んできた細かい石の破片が、ハイリアの頬を傷つけていった。
ムトは転びそうになったが持ちこたえ、振り返りもせずに走り続ける。
馬車で見た、あの爆風だった。黒剣をもつ男を止めていた、ジファールの笑顔が浮かんで消えた。
「うそ……、いやだ、ジファール! ジファール!! 」
ハイリアの泣き叫ぶ声が響き渡った。
―― なんでみんなが、こんな目に合わなきゃいけないんだ。みんなが何をしたっていうんだ。なんで、なんで……!?
「うるさい! 黙れハイリア!! 」
わんわんと泣きわめくハイリアに、ムトが声を荒立てて怒鳴った。
そのあまりの気迫に、ぼろぼろと泣くハイリアの泣き声がぴたりと止まった。
「いいか、おまえは生きるんだ! ベソかいてないで、あの化け物から逃げることだけを考えろ!! 」
ムトはそう言って走り、村の最奥地にあった遺跡まで来ると、抱きかかえていたハイリアを降ろした。
地面に足をつけた瞬間、自分の服にべったりと付着した赤い血をみて、ハイリアは青ざめた。
気づけば、ムトも血だらけだった。
あの化け物との爆発にやられたのか、腹部には大きな赤い染みができ、足下まで伝って流れ出ている。