第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「くそっ! この野郎、またアレをやる気か! 」
ジファールが、剣を握りしめ、黒い化け物に向かって突進したが、男に当たった剣は、湧き上がった黒い光に妨害され、粉々にはじけ飛んでしまった。
しかし、ジファールは止まらなかった。
そのまま、足を踏み入れ、漆黒の剣をもつ男の腕を握りしめたのだ。
漆黒の光がジファールを傷つけたが、彼が男の腕を持ったとたん、黒い剣に宿る光は急激に弱まり始めた。
マゴイ操作で男の魔力を遮断しているのだ。
「ハイリア、走れ! 」
ジファールの声が響いた。
頭の中が真っ白だった。
涙が溢れるばかりで、思考が上手く働かない。
「何してんだ! 早く!! 」
祈るようなジファールの声が聞こえた瞬間、ハイリアの足が急に軽くなった。
気づけば、ムトに体を抱えられていた。
「ムト、頼む! ハイリアだけでも!! 」
「まかせろ!! 」
ムトが走りだし、肩に背負い込まれたハイリアを、ジファールが笑顔で見つめていた。
だんだんと小さくなっていくジファールが、荒々しい声をあげながら、黒い化け物めがけて渾身の力を込めたのが見えた。
彼の多量のマゴイが全身を包んで煌々と輝いて、異形の男の黒いマゴイを押し戻していた。
あんな量のマゴイを使ったら、ジファールもただではすまない。
「ムト、ジファールが!! ムト!? 」
叫んだのに、ムトは止まってはくれなかった。
エレンやカレンが待つ馬車とは、反対側の方へと駆けていくムトは、いくらハイリアが背中を叩いても離してくれない。
崩れた瓦礫の壁に阻まれて、ジファールの姿はあっという間に見えなくなった。