第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
ジファールが戦っているのは、黒い剣を振り回している、怪奇な男だった。
虚ろな目をしているその男は、とても人には見えなかった。
その男の頭には、黒い棘のような角が生えていた。皮膚は黒く変じていて、石のように尖り、何かの鎧を全身にまとっているようにも見える。爪はまるで獣のように鋭かった。
化け物にしか見えない姿をしているのに、その背丈も、顔も、人間なのだ。
おぞましい姿をしている男からは、真っ黒なルフが渦巻くようにして溢れ出ていた。
―― なにあれ……!?
異形の男の姿に、ハイリアは凍り付いた。
そして、男と剣を交えているジファールの背中から、血が溢れ出ていることに気がついて、息を呑んだ。
ひどい怪我だというのに、ジファールは逃げようとしない。いや、逃げられないのかも知れない。
剣術の達人であるはずのジファールが圧されていた。
―― いつも助けに入るはずのみんなの姿がない。なぜジファールしかいない!?
ムトたちが見当たらなくて周囲を見渡した時、ジファールのすぐ後ろの瓦礫に寄りかかる四つの人影を見つけた。
それは変わり果てた仲間の姿だった。
血にまみれ、目を見開いたまま倒れている四つの遺体を見て、ハイリアは大きな叫び声を上げた。
声に気づいたジファールが、こちらを見て驚愕していた。
「馬鹿野郎! なんで来やがったんだ! さっさと逃げろ!! 」
ジファールが青ざめた表情で叫んだ。
逃げろと言われても、足が震えて上手く動かなかった。
―― 蘭花が、カイトが、スミスが、風真まで、どうして……!?
涙がボロボロと溢れ出して、止まらない。
蘭花も、カイトも、風真も、スミスも、この化け物に殺された……嘘だ、嘘だ。あんなに強い師匠たちがやられるはずがない。
黒い化け物は、剣を天にかざして真っ黒なルフを集め出していた。
剣の先に黒い光が集中し、丸くなった光の玉がどんどん大きくなっていく。