第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
ハイリアは、いつも通りの散らかりようにあきれながら、転がっている空の酒瓶や中身のない樽を、商品の積み荷と分けて並べはじめた。
残った食材も同じように分けてしまい、ケースを元通り整頓し、床を掃いて丁寧に掃除をする。
酒で汚れた床を最後に拭き上げると、荷台の中は、ようやく正常な状態へと戻った。
多少まだ、アルコール臭さが消えないのは仕方がないだろう。
「それにしても、いつもより遅いなぁ……」
荷台を片付け終わっても、師匠たちはまだ帰って来なかった。
ムト達が、賊に襲われた村や町を助けたことはこれまでにもある。
経験豊富な彼らが負けることはないと思うので、そこまで心配する必要はないと思うのだが、今回は火の手もあるから心配だった。
いつもなら、蘭花とジファールが、捕らえた盗賊の第一団を縄にかけて引き連れてくる頃だ。
すぐに帰ってくると言ったくせに、手間取っているのだろうか。
少し不安になりながら、馬のエレンとカレンがいる運転席から村の様子を伺った。
真っ赤に燃え上がる集落の火の勢いは、収まるどころか激しさを増しているようで、もう夜だというのに、この場所だけが昼間のように明るかった。
本当に早く帰ってきて欲しい。
赤い炎をみていると、昔の故郷を思い出して恐くなるのだ。
せめて、村の中の様子が少しでもわかればいいのに、あいにく民家の壁が邪魔になっていて、ここからでは何が起こっているのかさっぱりわからない。
エレンとカレンも、スミスがいないせいか、寂しそうに鼻を鳴らしている。
「大丈夫よ、エレン、カレン。きっと、もうすぐ帰ってくるよ」
運転席に座り込み、寂しそうなエレンとカレンの背を撫でてやると、二頭は少し落ち着きを取りもどしたようだった。
―― そうよ。きっと大丈夫よ。いつもそうだったじゃない……
ハイリアが自分に言い聞かせていた、その時。村が青白く光った。