第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「そういうこった、ひよっこ。危ねぇからよ、おめぇは絶ってぇ、出しゃばってくんじゃねぇぞ! 」
ジファールが重そうな長剣を片手に、意気高ぶっている。
「アタイはお前を久々の実戦に出してやりたい、っていう気持ちもあるんだけどねぇ……。 でも、可愛いお前が、ワケのわからない連中で傷つくのだけは見たくないのさ。だから、ちゃーんと待っているんだよ」
蘭花が、艶やかな笑顔で言った。
酔っぱらって情けなかった、師匠達の姿はもうどこにもなかった。ここにいるのは、キャラバン随一と噂も名高い、武術の猛者たちだ。
頼もしく、優しい兄貴分たちの姿を見て、村で賊が暴れているだろうというのに、ハイリアは笑顔になっていた。
いつもは無理矢理、闘技場に放り込むくせに、こういうときだけは、みんなで守ろうとしてくれるのが嬉しかった。
「わかりました。こっちはちゃんと片付けますから、早く帰ってきてくださいよ! 」
「任せておけ! 俺たちの泊まる村をつぶされたんだ。こらしめたら、すぐに帰ってくるよ」
ムトがにんまりと笑って言った。
「気をつけて、行ってらっしゃい! 」
ハイリアが笑顔で見送ると、師匠たちは嬉しそうに気合いをいれて、燃え上がる村へと向かって行った。
足音が遠ざかり、急に静かになった馬車に一人残された。
今回は、被害がひどそうだからと、スミスも手伝いに参戦しに行ってしまったから、本当に静かだった。
ハイリアは、少し離れた側に見える炎に怯えるエレンとカレンをなだめながら、言われたとおりに散らかった荷台を片づけることにした。
荷台の方は思っていた通り、ひどい散らかりようだった。
よくもこれだけ食い散らかしたものだ。
空いた酒瓶転がりまわっているし、すっかり中身の無くなった酒樽は、無造作に積み重なっている。
つまみとして食べたらしい肉製品の残りは、荷台の天井にぶら下がっているし、こじ開けた積み荷のケースは横倒しになったままだ。