第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
馬車が気持ちよく揺れるうちに、いつの間にかハイリアは、スミスの隣でまどろんでいた。
夕暮れ時だった赤い空がすっかり暗くなった頃、目覚めたハイリアの瞳に映ったのは、淡い光だった。
オレンジ色の光。町の灯りだろうか。
ようやく到着したのかとハイリアがぼんやり思った時、急に慌てふためきいなないた、馬のエレンとカレンの鳴き声が響き渡った。
馬車が大きく揺れ動き、危うく落ちそうになったのを、スミスに支えられた。
何事かと驚きながら前を見た瞬間、ハイリアは目を見張った。
馬車は、小さな村の集落の前に到着していた。しかし、その集落からは黒い煙がもうもうと上がっている。
村の中は激しく燃えているのか、奥から朱色の光が漏れだしていた。
「火事……!? 」
「いや、違う。なんだか様子が変だ……。ムト達を起こして来てくれ! 」
隣のスミスが、エレンたちを落ち着かせながら、険しい顔で言った。
「わかった! 」
ハイリアが慌てて荷台に戻った時、そこにはすでに武装をして待つ師匠たちの姿があった。
五人の武人たちは、驚くハイリアを見て、にやりと笑っていた。
「おはよう、ハイリア! よく眠れたか? 一番の寝坊だな」
ムトが、わざとらしい笑顔を浮かべて言った。その手には先が曲がった2つの剣が握られている。
「全く、相変わらず緊張感のない子ですね。こんな時に寝坊とは……。あの感じ、恐らく賊にでも村が襲われたのでしょう。 あの村には色々と恩がありますからね、我らが行かないわけにはいきません」
完璧に磨かれた飛び道具を身につけた風真が、静かにそう言ってハイリアをじろりと睨み付けた。
後で説教されるとわかって、背筋がゾクリとした。
「まあまあ、風真。ハイリアにはココを片付けてもらわなきゃいけないワケだし、どうせ置いてくんだから、そんなに怒るなよー。 ちゃっちゃと、俺達でやっつけちまうからさー、お前はこっちをしっかりやっておけよな! 」
荷台に散らかった酒瓶や酒樽を足でいじりながら、カイトが歯を見せて笑った。
その手にはしっかり大振りのくさり鎌が握られている。