第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
キャラバンから出ていくことなんて、想像したこともなかった。
稽古の時は厳しくて、酒癖の悪い師匠たちに困らされることは多いけれど、ここでの生活は嫌いじゃない。
師匠たちは、みんな本当の家族のように接してくれるからだ。
将来のことを思い浮かべても、今は何も浮かばない。
けれど、スミスの言うとおりだ。いくらキャラバンの生活が良くても、大人になればここにずっといるかはわからないのだ。
もしかしたら、自分だって誰かと恋に落ちでもして、結婚したりするのかもしれない。そうした時に、自分はいったい何をしていたいのだろうか。
西と東を往復する、このキャラバンのおかげで、今まで町を巡って、色々な生活を目の当たりにしてきた。
物を売り買いする人、町を警備する人、荷を運搬する人、建物を建てる人、病気を治す人、勉学を教える人……。
様々なことを生業とする人達がいた。
―― 私の将来か……。
ゆっくりと進む馬の背を眺めながら、ハイリアは、ぼんやりと物思いにふけった。