第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
大きな街に着くのは明日だ。
明日、荷台に残るだろう商品を売っても収益が足りない気がする。副業となったら、今度はいったい何をするはめになるのだろうか。
だいたい、あの暴食の師匠たちが、次の街までのことなんか考えて飲み食いするとは思えない。
明日の食事分は確保できるのだろうか。
「大丈夫だよ。明日の食べる分くらいは隠してあるから。ただ、次の街ではやっぱり副業しないと駄目かもしれないね」
心配そうなハイリアの表情から、考えていたことを悟ったらしいスミスが、穏やかに言った。
「もう……、なんで師匠達はいつもこうなんでしょう……。もう少し、あとさき考えて行動することを、覚えた方がいいと思います」
ため息をついたハイリアをみて、スミスはくすくすと笑っていた。
「もうあれは長年の癖みたいなもんだからね。昔は、君が小さな子どもで、君の方が面倒をみてもらっていたのに、今ではハイリアが、ムト達のお母さんみたいだな」
「あんな手間のかかる子どもは嫌ですよ……」
ハイリアの言葉に、スミスはおかしそうに笑っていた。
「もうハイリアも十五歳になるのだろう? 早いもんだな……」
「まだ十四歳ですよ。誕生日は一ヶ月くらい先ですから」
「そうだったね。でも、もうほとんど十五歳だ。ハイリアは、これからどうするつもりなんだい? 」
「どうするって? 」
「これからのことだよ。十五歳にもなったら、将来のことも色々と考えるだろう? 何かやりたいことはないのか? 」
突然、将来のことなんて言われて、ハイリアは驚いた。
「そんなの、考えたこともありませんでした……」
「そうか。じゃあこれから、ゆっくり考えるんだね。君はこれからの事なんて、いくらでも未来を変えていけるんだ。 だから、このキャラバンに居てくれることは嬉しいけれど、何もずっとここに留まっていなくたっていいんだよ」
スミスは優しくそう言って、手綱を引く馬へと視線を移した。