第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
「まぁ、いいじゃねぇか! もう数日もすれば闘技場に着くんだ。そこで今回も稼いで、いい酒飲みかわすぞ~!! 」
ムトが声を張り上げると、武術の猛者たちが揃って威勢のいい声を上げ、盛大に騒ぎ始めた。
師匠であり、兄貴分であり、育て親でもある家族の悲しい姿を見て、ハイリアは大きなため息をついた。
こうなると、もう誰にも止められない。
皆が、闘技場、闘技場と騒ぎはじめて、ハイリアは頭が痛くなってきた。
レーム帝国にやっと近づいて来たのもあって、ムトたちが上機嫌になるのもわかる。
ヤンバラの民であるムトは、闘技場に知り合いも多いし、武術の猛者である他の師匠たちも、あそこでは顔が知れているからだ。
旧友に会えて嬉しいのはわかるのだけれど、ハイリアにとってあそこはあまり良い思い出がない。
初めてレームの闘技場に出さされたのは、七歳の時だった。
朝起きたら、勝手に剣闘士に登録されていて、嫌がる中、試合開始と共に闘技場に放り込まれたのだ。泣き叫びながら、迫る獣を必死で倒したのを覚えている。
それなりに戦えるようになった今は、自分が闘技場に出場するたびに、師匠達は観客席で周囲の客と賭け合う始末で、負けたら許さないという鋭い面構えで客席から睨んでくるのだ。
あの闘技場に滞在している間は、やたらと朝稽古が厳しくなるのも嫌だ。本当に容赦ないのだ。
これから試合があろうとお構いなしで、連続で五人の師匠がしごいてくるから恐ろしい。
そのせいか、レームの闘技場と聞くと、どうも嫌な気分になるのだ。
こんな戦いだらけの中に身を投じることになったのも、拾われたキャラバンが、馬鹿がつくほどに戦いを趣味とする武道集団だったからだ。
村を何者かに襲われて故郷を失ったのは、四歳を迎えたばかりの頃だったと思う。
一人、隣町へ助けを求めて暗い山道を走っていた自分に、襲ってきたのは狼の群れだった。
噛みつかれそうになったその時、命を助けてくれたのが、ムトだったのである。
それから、このキャラバンに身を置かせてもらい、もう十年になる。これまで育ててもらったことには、当然感謝もしている。
けれど、武具や珍しい食材などを売りながら、行く町、着く町で、武道大会やら、闘技場やらに、無理矢理参加させられるのは、正直なところ毎回憂鬱だ。