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【マギ*】 暁の月桂

第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕


「まあ、落ち着きなさいよ、ハイリア! ムトは、レームが近づいてきて浮かれてるのよん。少しは、おおめに見ておやりって~」

苛立つハイリアに腕を絡めてくっついてきたのは、蘭花だった。彼女の顔も赤く、酒臭い。

唯一の女性師匠であり、体術の達人である蘭花は、いつもは頼れる存在だけれど、酒にめっぽう弱く、数口飲んだくらいで出来上がってしまう。

きっと、またムトに急かされて飲んでしまったのだろう。

普段は凛として綺麗な姉さんも、こうなるとただの酔っぱらいだ。

「もう、蘭花姉さんまで……。ってことは、みんな飲み始めちゃったの!? 」

ハイリアがため息をつきながら、荷台の中を見渡すと、知らないうちに辺りは宴会会場と化していた。

明日売るはずの酒樽や酒瓶があけられて、師匠たちの手に握られている。全部、側にある積み荷から取り出されてものだ。

よくみれば、ご丁寧に酒のつまみまで広げていた。

「もうすぐ宿に着くっていうのに、なんでみんな待てないんですか!? 」

「ばぁーか、酒は飲みたいときに飲むのがうまいんだよ! 」

ジファールが、野太い声で言った。ムトの隣に座る彼の手には、葡萄酒の酒樽がそのまま握られていた。

床に置いてある長剣で、器用に樽に穴を開けたようだった。

「だよなー! やっと砂漠ごえしたんだから、飲みたくもなるってもんさ。ただの砂漠越えなんてつまんなかったし! やっとこ本格的に戦えるってんだからさー」

そう言うのは、くさり鎌の扱いと得意とするカイトだ。

背丈で少年のようにも見えるが、年はハイリアより六つも上だ。当然、手には酒瓶が握られている。

「ただの砂漠ごえになったのは、貴方が砂漠の武道大会で荒稼ぎしすぎたせいでしょう? そのせいで、出入り禁止になり、一ヶ月も体をなまらせる羽目になったではありませんか……」

ため息を吐きながら静かに言ったのは、飛び道具の扱いを得意とする風真だった。

今日も、くの字に曲がった刃が輝く、お気に入りの武具を綺麗に布で磨きあげている。

彼は酒を飲まないが、こういう状況を止めてくれる人ではない。

武具の整備の邪魔をしたなんてことになれば、後々、稽古で恐ろしい目にあう。
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