第4章 オアシスの異変
露店を始めて、ちらほらと人がバザールに現れ始めるが、ほとんど店を遠巻きに見ている者ばかりだった。
店に寄ってくる人もいるが、いつもの客層とは人相が違う。ごろつきのような人ばかりだ。
隙を見て盗みを働こうとしている者もいるようで、ライラが上手く店に寄ってくる人を選別して、時々追っ払ってくれている。
「大丈夫か? ハイリア。確かに、今日の客はいつもの人達とは違うけれど、盗賊くずれなんてそんなに怖いもんでもないんだ。気にせず商売しよう! 」
笑顔でライラが、トンと軽く背中を押した。頼もしいライラのおかげで、ハイリアは、少しだけ気持ちが和らぐのを感じた。
「うん。ありがとう、ライラ」
町の現状を見て、気持ちが落ちこんだのはハイリアだけではない。サアサやモルジアナも、表情が暗い。
ライラがいなかったら、きっとこの場所で商売をしようなんて思わなかっただろう。
しばらくたっても、客足はちっとも伸びなかった。
時々、露店を見に来る人はいても、なかなか買ってくれないし、じっとりと店頭に立つハイリア達を品定めするようにみてくる者までいて、背筋が寒くなることもあった。
陽が真上まできても、状況は変わらなかった。
仕方なく、早めに露店を片付けることになり、商品を袋にしまったり、組み立てた露店の木材をばらしている時、ハイリアの耳に奇妙な音が入ってきた。
はじめは砂の音かと思ったけれど、徐々に大きくなってきたその音は、ジャラジャラとした金属音だということに気づく。
地面とこすれるような音と、鎖の軋む音。
耳障りなその音の方へと視線を向けたとたん、鎖につながれ、引きずられて歩く奴隷の姿が見えてハイリアは目を見開いた。
そのおぞましい光景に、目が離せなくなる。
先頭に立って、鎖につないだ奴隷を引いているのは、口元の紅が妖しい、灰色の長髪の男だった。
きっと奴隷商人だ。異様な雰囲気を辺りにもたせながら、やせてボロをきた奴隷達を歩かせている。
胸が痛くなる光景に、表情を固めて立ち尽くしていたハイリアの腕を誰かが引いた。ライラだった。
ライラは、ハイリアをまだ形を成している露店の裏に隠すように手を引いて移動させた。