第4章 オアシスの異変
「モルジアナ、ほら立ってよ! 」
ハイリアが差しのべた手を、モルジアナはゆっくりと掴み、ようやく立ち上がった。
その様子を見て、ライラもサアサも安心しているようだった。
「……ありがとうございます」
ぎこちなく言って、モルジアナは服に付いた泥をはらった。
モルジアナは、こうやって時々、そこまでしなくてもいいんじゃないかってくらい、人に気を遣いすぎるところがある。
変わっているといえば、一言ですむのかもしれないが、それ以上に何か理由を抱えているような気がして、ハイリアはそれが気がかりでもあった。
けれど、語りたがらない彼女に強要することなんて、したくはないから聞かないでいる。
地面に置いていた果物がたくさん入った袋の荷を、軽々と担ぎ始めたモルジアナを見つめながら、ハイリアは、胸の中にまた、もやもやした複雑な感情を抱えた。
「それにしても寂しいわ、二人ともバルバッドで降りちゃうって言うんだもの。このまま二人ともうちにいてほしいくらいよ、ね~ライラ! 」
「だよな~! 」
ライラとサアサが声を合わせて言った。
その表情は笑顔だけれど、内心二人が本当に寂しいと感じてくれていることは知っている。
寂しいのは自分も同じだ。旅立ってから、こんなに家族のように接してくれたキャラバンは初めてだった。
それでも、バルバッドで降りないわけにはいかないのだけれど……。
「……いえ、私は故郷へ帰ります。それが私の恩人との約束ですから」
何かを思い返すように遠くをみつめながら、モルジアナが言った。
彼女の目的を初めて知ったハイリアは、なんだかモルジアナが羨ましかった。
自分には故郷がもうないのだ。
その場所がせめて目指す場所と同じだったらいいのにと、少し考えて、さすがにそんなに都合良くすべてが一緒になるはずはないだろうと、自分に言い聞かせた。
「私もバルバッドに行かないと。船に乗って、シンドリアまで行くつもりなんです」
ハイリアはそう言って、モルジアナを見たけれど、彼女は無反応だった。
少しだけ期待したけれど、やっぱり目的地は違うようだとわかる。
だとしたら、もう少しでみんなバラバラになってしまうのだ。そう思うと、急に別れることが現実味を帯びて、寂しくなってきた。