第3章 上杉謙信 謙信誕生祭~抑えきれない感情~
『謙信様のことなんて、知らなければよかった』
雨の中そう言い放ち、走り出そうとするなおの腕を掴み、壁へと囲い込んだ。
行くな・・・
お前は、俺のそばにいろ・・・
白く細い首筋に唇を這わせ、歯を立て、舌でなぞった。
触れた肌が冷たいのは表面だけで、なおの身体は温かく、唇に脈が触れる。
その温もりにすがり付くように、なおの首筋を貪り、痕を残した。
翌朝、安土の城下を散策する。
気が付けば、昨夜なおを送った大通りまで来ていた。
無意識のうちになおを探している自分がいる。
謙信「尋ねたいのだが」
目に留まった、道端で立ち話をする商人らしき男たちに話しかけ、
謙信「この辺りで、なおという女が住み込みで働いている屋敷を知らないか」
男「お兄さん、見かけない顔だね」
訝しげに俺を見る男に、
謙信「昨晩なおに世話になってな。礼をしたいのだが、この辺りだと言う事しか聞かなかった」
警戒を解こうと、なるべく柔らかな声で話した。自分でも鳥肌が立ちそうだ。
男「この辺りでなお様を知らない人はいないよ」
謙信(なお・・・様?)
聞けばなおは安土城に世話役として住まう、織田家所縁の姫だと。
道理で・・・
俺に踏み込んでくるようで、どこか壁を作る様なあの態度。
なおのことだ、きっと安土の面々に可愛がられているだろう。
思わず手に入れたくなるような、その温かさ。
そばにいれば、いずれ愛しさに変わると容易に想像がつく。
何故なら、俺自身がそうなのだから。
『私は、ここにいます』
俺のそばにいると言った、なおの目。
その目で見つめるのは俺だけであって欲しいと、嫉みに拍車がかかる。
戦以外に興味が湧くこと。
そんなもの、無いに決まっている。
なお以外には。