第3章 上杉謙信 謙信誕生祭~抑えきれない感情~
「私は・・・安土城で世話役として暮らしています」
消え入りそうな声でなおが話し始める。
杯を傾けながら、謙信は静かに聞いていた。
それまでの経緯を伝え終わると、なおは深くため息をつく。
謙信「今までお前はそれを黙っていた。その理由は?」
なおの胸がドクンと音を立てる。
何か答えようと口を開けば、なぜか言葉ではなく涙が零れた。
今更ながら自覚する。
それだけ謙信に惹かれていたのだと。
「もう、会えなくなってしまうと・・・」
それだけ言うのが精いっぱいで、それ以上涙が零れないようにきつく唇を噛んだ。
謙信「お前は俺に、戦以外の喜びを見つけると言っていたが、もう必要ない」
見つめ合ったまま、沈黙。
『何とも思っていない。
この女のことなど、どうでもいい』
『お前と俺の関係は所詮、赤の他人』
『余計な詮索はするな』
頭に浮かぶ謙信の言葉。
思わず俯くと、握りしめていた拳の上に滴が落ちる。
謙信「なお」
歪む視界の中、謙信の手が伸ばされるのが見えた。
その指が、なおの首筋に触れる。
「っ!」
下を向いたまま肩を竦めると、謙信の指がそっとなおの髪を退ける。
謙信「・・・消えそうだ」
「え・・・」
謙信「昨日お前に残した痕が」
「っ!?」
顔を上げると、思いの外近くにある謙信の顔。
謙信「信玄から何か聞かされたようだが、俺の過去が気になるか」
気にならないと言えば嘘になる。
冷たい表情、その瞳。その理由は・・・
謙信「俺は気にしない」
ゆっくりと謙信の唇が迫る。
謙信「お前の過去より、これから先が重要だ」
「・・・っ」
透き通った、感情の読めない謙信の瞳から目を逸らすことが出来ず、ただ息を詰めた。
なおの首筋に、唇が触れる。
食むように優しく、そしてやんわりと歯を立てる。
「んっ!」
舌を一筋這わせてから、なおの顔を覗き込み、
謙信「俺の喜びは、お前に決めた」
「・・・っ」
謙信「俺のそばにいると言っただろう」
その眼差しからは想像もできない程、温かな唇が触れる。