第3章 上杉謙信 謙信誕生祭~抑えきれない感情~
(またしても話が違うよ・・・佐助君)
なおは緊張で体が強張り、硬く握りしめた拳を膝の上に、正座していた。
謙信「何故そんな顔をしている。おまえ自ら出向いてきたというのに」
「そうです、よね・・・」
向かい合う二人のほかに、この部屋には誰もいない。
宴など開かれておらず、通されたのは謙信の部屋。
謙信「で、何の用だ」
無表情で酒を煽りながら、俯くなおを見据える。
「あの、ですね・・・」
言ったらどうなるんだろう。
安土城に住んでいて、織田側の人間だと・・・
そっと顔を上げると、真っ直ぐ突き刺さる謙信の視線とぶつかった。
「・・・やっぱり、またの機会に」
腰を上げようとするなおに、
謙信「待て」
鋭く言い放つ。
謙信「お前のその思いつめたような顔・・・理由は何だ」
「いえ、大したことでは」
酒を飲み干し杯を置くと、
謙信「そばへ来い」
自分の横へ、目線でなおを促す。
断れない程に張り詰めた空気。
なおは恐る恐る近づく。
謙信「話があって来たのだろう。さっさと済ませろ」
「・・・っ」
言えばきっと、二度と会えない。
それどころか、この場で斬られ・・・
謙信「お前が言えないのなら、俺から言ってやろうか」
杯を酒で満たしながら、こちらも見ずにそう告げる。
謙信「お前がどこの人間か」
「!!!」
目を見開き、咄嗟に身構えるなおに、ゆっくりと視線が向けられる。
「もう一度聞こう。お前は何を言いに来た?」