第3章 上杉謙信 謙信誕生祭~抑えきれない感情~
佐助「なおさん、こんにちは」
天井からひらりと降り立つ。
「佐助君、昨日は大丈夫だった?」
なおが心配そうに、だがどこか可笑しそうに尋ねた。
佐助「ああ、若干頭が痛い」
「あはは」
ゆっくりとなおの前に腰を下ろす。
佐助「今夜も安土に滞在して、明朝帰るんだ。その後しばらくはなおさんに会いに来られないと思って、お邪魔させてもらった」
「そっか、忙しいんだね。 わざわざ来てくれてありがとう」
お茶の用意をしながらなおが答える。
佐助「・・・ なおさん」
「ん?」
振り返ったなおに、
佐助「昨日、謙信様と何かあった?」
「へっ!!? 熱っ!」
動揺して、お茶をこぼす。
佐助「帰る君を送って行ったって聞いて」
出されたお茶に口をつけ、ふっとため息をつく。
佐助「謙信様、今日は何だかいつもと様子が違うんだ」
「へ、へぇ~ どんな風に?」
佐助「ぼーっとしてるようにも見えるし、真剣に何かを考えているようにも見えるし」
「・・・」
佐助が、じっとなおを見つめる。
佐助「実は謙信様から言われたんだ。君が住み込みで働く屋敷を教えろって」
「え・・・」
佐助「いずれ分かってしまうかもしれない。どうする?」
「・・・」
湯呑に視線を落とし、なおは暫く考える。
「誤魔化してもらったとして、もし後で事実を知ったら・・・」
佐助「その場合、謙信様がどういう行動に出るか、さっきまでは想像もつかなかったんだけど」
お茶を飲み干し、佐助が立ち上がる。
佐助「ここへ来て、何となく分かった気がする」
天井裏へ立ち去ろうとする佐助を、
「ねえ、あの・・・自分で・・・」
迷いを含めた声で呼び止める。
佐助はほんの少しだけ笑顔を浮かべ、
「もしそうするなら、夜、昨日の待ち合わせ場所まで来て。どうせ今夜も宴会だ」
音もなく立ち去って行った。