第2章 我々の日々。ダイジェスト版
私は筆を一度置いて、それから息を吐いた。
現在、京都池田屋までを攻略した我が本丸は、最初に比べて随分と賑やかになった。
屋敷も何度か増設を繰り返して、この屋敷に最早初めの寂しさや薄気味悪さはない。
時刻を確認すると午前九時前。そろそろ、朝礼だ。行かないと。
私は机の上にまとめてあった紙の束を持って立ち上がる。
座敷の襖を開けると、私は屏風を背にした大将席にどかりと腰を下ろした。
一連の朝の挨拶、様々な反応の返される内番発表。それらを終えて、出陣部隊の発表も済ませる。
何時もなら、そこで解散。だが、今日は大切な話があるので私は解散の四文字を口にしなかった。
「主?」
近侍である山姥切が声をかけてくるが、私はそれには答えず立ち上がった。
「皆に連絡がある。明日から、演練に参加しようと思う。」
その一言は、座敷をざわつかせるには充分であった。
前々から渋っていた演練への参加。
私の突然の発表に皆驚いているが、しかし直ぐにそれは喜びと興奮の入りまじったものになった。
「メンバーは明日また改めて発表する。階級については気にしなくてもいい。そんなもの、あってないようなものだからね。」
笑って手を振り、廊下に出る。
庭の見える縁側まで来て、わざとそこに座る。
そして、あとは待った。
追いかけてきた誰かが………
「どうして演練に参加する事にしたんだ」
………こう聞いてくるのを。
私は、顔をグッと、上げて声の主山姥切を見る。
「何故だと思う?」
「質問で返すのはいけない、と俺はあんたから教わったんだが」
「あぁ、そうだった。そうだなぁ、正直に白状すれば『見解を広げる為』だよ。」
「見解?」
山姥切には今一つ伝わらなかった様だ。
私は、下ろした足をゆらゆらと揺らしながら、話す。
「世の中は広い。広いから、きっと他の審神者を見れば貴方達の世界も広がるよ。酷い人、優しい人、現実主義の人、空想主義の人。沢山いるよ。」
私は、きっとそれは良いことだと思う。
誰かと話をして、誰かのやり方を見て。
憤って、感心して、幻滅して、抱えきれない希望を抱いて。そうやって、人の心を知ればいい。
「国広。私の優しい初期刀。これからは、沢山のことを知ろうね。沢山の事を見ようね。そうやって、幸せになろう」
立ち上がって、彼の頬に手を当てて笑う。
慣れたもので、彼は少しだけ息を吐いて微笑んだ。