第2章 我々の日々。ダイジェスト版
我が本丸の初期鍛刀というもので来たのは、優しく臆病な短刀であった。
五虎退、という名の彼は小さく。
私は彼の頭を撫でて『ようこそ』と声をかけた。
彼が私を見上げた時、その瞳の美しさに魅せられた。
私は彼を歓迎し、小さな愛しい存在を心のなかに手に入れた。
臆病な彼は、しかしひた向きで健気で可憐であった。
私が帰ってくると何処にいても駆けてきて、「主様、お帰りなさい。」と言ってくれる。
私はそんなとき、決まって彼の頭を撫でて「ただいま」と返す。
彼をしつこく抱き上げて構えば、山姥切が遅れて到着し、呆れたような顔をする。
これを一連の流れとして完成させて、私達のお約束が一つ増えた。
「ねぇ、君達は恋というものをどう思う。」
彼等と小さな食卓を囲みながら聞いてみる。
これは、一つ目の試み。
具現してまだ数日の彼等が、どう答えるのか。
一日目に聞いたときは、二人とも質問の意味すら理解していない状態であった。
私はそれを見て、直ぐに「何でもないよ」と質問ごと終わりにした。
ここ数日、出陣もせずに居たわけはこれだ。
二人になって、軽いお約束が出来た今。彼等はどう答えるのか。
変化を知りたい。
「恋、って。えっと、あの、あにめ?の奴ですよね」
五虎退の質問に、私はへらりと笑って頷いた。あくまで、表面はただの質問だ。悟られては、内緒の意味がない。
ここで蛇足を一つ入れると、五虎退の言うアニメはあの餡パンが出るやつだ。
菌である少女が、食品である彼を思う様はまるで勘違い審神者と刀剣みたいだと、皮肉的に解釈することもできる。
「恋、恋………ド⭕ンちゃんの恋は叶うんですか?」
尋ねられて私は言葉をつまらせた。
恋には、悲劇と喜劇とがついてまわる。
さて、彼に早くも悲劇を教えるか………それはそれでいいが、自力で知る方が良いのではないだろうか。
「叶うんじゃないか。」
二者択一を前に悩む私の変わりに、山姥切がそう答えた。
私は、彼の言葉を一字も逃さないように耳をすませた。
「叶うんですか?」
「あぁ。ド⭕ンの奴は我が儘ではあるが、愛嬌はある。何よりも、自分を思ってくれるド⭕ンを食パンは好きになるんじゃないか」
「そうですよね!良かったぁ………」
ホッと胸を撫で下ろす五虎退とは対称的に私は、真顔であった。
山姥切国広は、早くも恋に必要な物を理解している。
これは、中々に面白い事実だ。