第1章 少女を変えたもの
この時、わたしは初めてやつらを·····巨人を見た。
およそ100年の間、絶対の安全を約束されていた壁が壊されたのだ。
でも、その時のわたしは現状を把握できていなかった。
『どうしてやつらが···!』
「ノエル····何が、起こっているの·····?」
『やつらが····!巨人が壁のなかに入ってきた····!』
わたしは手の震えを無理やりに止め、夢中に瓦礫を掻き分けてお母さんを助けようとした。
でも、お母さんがそれを止める。
「いいから逃げなさい!わたしはもう走れないどころか歩けもしない。ノエル。聞き分けのいいあなたなら、わたしが言っていることが分かるでしょう?」
そんなもの、分からない。
分かりたくもない。
「お願い、ノエル···。分かって····」
わたしは傷だらけになった手でお母さんの手をそっと握った。
『嫌よ。わたしは絶対にお母さんを助ける。ふたりで逃げよう』
その時、原型が無くなってしまった家の瓦礫に大きな影が写った。