第11章 それぞれ還る道
月に照らされた桃園の中に、その影は佇んでいた。
息を弾ませ駆け寄る
大好きなあの人の名前を呼びながら。
「鬼灯様!」
「槐さん。待ってましたよ。あぁ、やっぱり貴方はその服の方が似合っている」
沈黙
残された時間はあまり無いはず。
なのに
何を話して良いのか判らない。
「槐さんと最初に会った時も、木の下でしたよね」
ぎゅっと引き寄せたその腕は、心なしか震えているように見えた
桃の花が舞う
「・・・離れたくないなんて我儘、言いません。・・・でもやっぱ、悲しいですね」
笑って言うつもりが、涙声になっている。
そんな私を鬼灯様は抱きしめてくれた。
唇同士が触れるくらいの優しいキスが何度も繰り返される
「悲しいのは私も同じです。できればこのまま貴方と一緒に何処かへ逃げることが出来るなら、どんなに良いでしょうか」
鬼灯様の黒い瞳が悲しげな色を帯びていた
「貴方くらいです。私にこんな表情をさせるなんて。そして貴方以外にいないでしょうね」
もう一度強く抱きしめられる
鬼灯様の鼓動が少し、速い
「もう少しだけ時間があります。槐さん、それまでこうしていて良いでしょうか」
抱きしめ合ったまま私は頷く
本当に、時が止まってしまえばいいのに