第11章 それぞれ還る道
その日の見学地は、天国だった。
あの世絶景100選と呼ばれるところを次々巡った。
私の希望で、なるべく歩ける場所は徒歩で。
今ひと時でも、この人達と生きている実感を噛みしめたかったから。
歩く時は、鬼灯様は必ず手を繋いでいてくれた。
時折、反対側の手を白澤様が握ったり、握り返したり。
陽が傾くころには、運動不足の私と白澤様はくたくたになっていた。
一方、さすが鬼と言ったところか鬼灯様は涼しい顔をしている
桃太郎さんが用意して待ってくれていた夕餉の後に、軽くシャワーを浴びる。
あと数時間で、この世界を去り、現世へ帰らなければならない。
昼間に鬼灯様と白澤様とした会話が脳裏に蘇る。
「お二人とも、視察や仕入れで現世に行く事があるって聞いたんですけど」
「うん、僕は扱ってる漢方の関係でね。材料を届けたり、仕入れたり」
「私も現世の視察は結構あります。主に亡者の不法滞在の取り締まりや、実際に現世で働いて肌で感じてみたり、ですね。閻魔大王がアレなので、私が代わりにやってるようなもんです」
「じゃあ、もし私が現世に帰った後、会ったりできるんですか?」
「残念ながらそれは不可能です。基本的に現世の者と個人的に接触するのは好ましくない。ある種の贔屓にもなりかねませんので」
「・・・そうですか・・・」
「でも、こちらから貴方の事を見るのは出来ます。まぁ、浄玻璃の鏡自体、あまり使わないんですがね」
「そうなんですかー・・・本当にお別れなんですね・・・」
今日でお別れ。
これはもう、どんなに足掻いても逃れらない決定事項。
これを覆そうと自殺でもしようものなら、
本当に取り返しのつかないことになる
沈んだ気持ちで体を拭き脱衣所へ向かう。
先ほど脱いだはずの中華服はそこには無かった。
代わりに、地獄へ落ちてきた時に身に着けていた
洋服が畳んであった。