第10章 神獣戯画
「どうー?恐くないー?」
白い獣が私の前に現れた
でも声は白澤様の声そのものだ
「恐いっていうか、すんごい神々しいんですけど!」
「そりゃあ僕神様だもん」
そうだった、この人、神様だった。
「じゃ、僕の背中に乗ってよ。これでひとっ跳びしよう!」
「し、失礼します。」
そっと腰を掛ける
「とぶよー。しっかり掴まってね?」
蹄で大地を蹴り、空に舞い上がる。
私を見下ろしていた月と、目線が近くなる。
「誤解しないでね槐ちゃん。フツーの女の子にはさせた事ないんだから!
あ、酔っぱらって閻魔大王乗せて跳んだことはあるけどね」
さっきまで歩いていた場所が随分小さくなる。
ここに来てから何かと空飛んでばっかりだなとふと思い、自然に笑みがこぼれる
「どう?楽しい~?」
「なんだか昔話の主人公になった気分です!」
調子付いた白澤様は尚も空を駆る
「ねぇ、槐ちゃん」
「なんですか?」
「槐ちゃんが生まれるより少し前の現世で、流行した曲があるんだ」
「西洋のヒトが作った曲なんだけどね、内容がこんな感じなんだ。
『君と二人だけで中国行きの船に乗って、君をモノにしたい
じっくり君を蕩かして、満月の下で』
大まかに訳するとこんな歌があってさ。
今、まさにそんな気分。僕」
月と夜空と桃の香。
私の恋人は鬼灯様だけど、
もし色んな出来事の順番が違ったなら
私はこの人に恋をしていたかもしれない
「大丈夫、ちゃんと家に戻るよ。ほら、もう見えてきた」
私の少しの動揺を不安と勘違いした白澤様が慌てて繕う