第3章 大きな朽ちた木の下で
着物の前合わせを押さえ、そっと脱衣所の扉を開ける。
「やはり男物は少々長いですね。腰紐は必要でしたか。まぁ帯で代用でいいでしょう」
背の低い私に合わせるように、やや屈んだ姿勢の鬼灯様の姿がそこにあった。
途端に、さっき思い出した悲劇が首をもたげてきた。
洗い流した涙が、また、溢れてくる。
「どうしたんですか。・・・もしかして」
今置かれている現実に、温もりをすべて持っていかれてしまったような感覚。冷たくて恐くて寂しくて。
堪らず鬼灯様に倒れるように抱き着いてしまった。
「思い出したんですね、地獄に来るまでの事。」
まだ生乾きのままの私の髪をそっと撫でる。
「私のお父さ・・・父と母は、どうなったんですか?」
「それについては、閻魔庁でお話しします。今後の貴方自身の事とも関係がありますので、公の場でお話ししなければならない義務があります」
「・・・わかりました。でも、もう少しだけこうしていてくれませんか?」
「かまいません。でも、貴方の泣き顔は見ているこちらも辛いです。拭ってもかまわないでしょうか」
刹那、私の頬に流れた涙を鬼灯様は口付けで拭ってくれた。
鬼灯様の体温が、凍り付いた私の心を少し、溶かしてくれたような、気がした。
何故あの時鬼灯様はそんな事をしてくれたのか。
今ならわかる。
この先待っている私の悲しい現実を知るが故の、
不器用なやさしさ。
-----------キリトリ---------------
「シャワーヘッドが恐ろしく趣味悪いんですがあれは」
「金魚草です」