第2章 勧誘
それまで無表情を貫いていた男の口角も少しだけ上がった様な気がした。
どうやらアオイの能力は犯罪組織のお眼鏡にかなったと言う訳だ。
「数字はやや怪しいが、まるっきり嘘をついてる訳では無いようだな」
暁のリーダーともなると人の心が覗き読めるのかとアオイは戦慄した。
「戦力自体はまだ何とも言えないが、確かに見す見す逃すには惜しい能力だ。……角都、一応聞くがその女、何処かの里のスパイなどでは無いだろうな?」
いきなり連れてこられてその言いがかりは無いだろうと辟易しつつも、身の潔白を証明できる術のないアオイは角都を見上げる。
「知らん。だがこんな小娘如きに引っ掻き回される程度の組織なら潰れてくれて構わないと思うがな」
「確かに、お前の言う通りだ」
男は角都に同意して微かに笑ったようにも聞こえたが、その表情は氷の様に冷たいままだった。
「では問おう小娘。一般人を装いながらそれほどの戦力を持つその理由は?」
問い掛けの矛先はアオイへと向かう。
「お前はその力で一体何を望む?」
「科学者が研究をするのに純粋な興味以外の理由が必要ですか?作れそうだったから作ってみた。それが使えそうだったから使ってみた。ただそれだけですよ」
何かを隠すように饒舌になったのを暁のリーダー……"ペイン"は見逃さなかった。
「隠し事が通用するとでも思ったか。もう一度だけ聞くぞ。お前の目的は何だ?」
ピアスだらけの手のひらがアオイに向けられた。
透き通る程白く、大きなその手に彼女の命は握られているのだ。
アオイは諦めたように溜め息を吐いて白状し始める。
「……復讐ですよ」
それは感情を失ったような声だった。