第2章 勧誘
呆気に取られ暫し沈黙した後、先に口を開いたのは飛段だった。
「あーー、クッソ!クソジジイ!ヒジキ野郎!意味わかんねえ何なんだよマジ!クソ、殺す!アイツ殺す!…殺せねぇけど、ぶっ殺す!!」
少ない語彙を振り絞っての罵倒がネタ切れになると、飛段はその場にしゃがみ込んだ。
てっきり子供の様にいじけてしまったのかとアオイは思ったが、どうやら違うらしい。
「……乗れ」
「あ、あの飛段さん…?」
「聞こえねぇのかよ…乗れっつってんだろ」
アオイは戸惑いを隠せなかった。
歩いている最中にも絶え間なく敵意(というか殺意?)は向けられていたし、聞き馴染みの無い神の名をしきりに叫んでは口癖の様に殺戮、殺戮と繰り返す。とにかくこんなのと二人きりになどされたらすぐに殺されてしまうと思っていたアオイにとって、しゃがんで背を向け手を広げる飛段の姿は彼女から言葉を失わせるに十分だった。
「んだよ、荷物みてぇに運ばれる方が好みか?」
「滅相もない!」
アオイは慌てて飛段の背中に体重を預けた。
景色がどんどん後ろに流れて行く。
隣にいる角都と比べてしまうせいで、細い印象があったが、飛段の背中は充分に広く鍛えられていた。
諦めてしまえば、歩かずとも目的地へ近づいていくというのは非常に楽だった。
「飛段さんって優しいんですね」
「んな訳ねえだろ糞ガキ」
轟々と鳴る風に負けじと、次第に二人の会話怒鳴り合う様な声量になっていく。
「角都さんに置いてかれた時、私てっきり殺されるかと思っちゃいました」
「オマエの事ぶっ殺した後、角都を言いくるめられるウマい言い訳があんならとっくにそうしてるわ!」
冗談には聞こえない脅し文句を吐いたあと、飛段がポツリと零したのをアオイは聞き逃さなかった。
「……俺はアレコレ考えるのキライなんだよ」
西へと逃げる太陽を隠すように厚い雲が辺りを包み、ポツリポツリと雨が振り始めた。
(良かった、飛段さん馬鹿で)
灰色の摩天楼。
雨隠れの里が見えてきた。