第2章 勧誘
今までも急ぎの仕事でもなければ長距離の移動は歩くことが多かった。
しかし飛段はいけ好かない女の歩調に合わせアジトまで着いて行かなくてはならない事、そしてそれによって自身の信仰に必要不可欠な殺戮行為がなし崩し的に後回しにされているというのがどうにも気に障る様だった。
「なァ、良いのかよ角都?」
声に苛立ちを含ませてそう問うたが、相方からは相槌もなければ制止も無い。
飛段は短くも無い付き合いからこの無反応を「続けろ」と意味に解釈して先を続けた。
「前に言ってたじゃねーか、なんだっけな……そうそう!時は金なりだ!つまり今こうやってチンタラ歩いてる時間はオマエの大好きな金なんだよ。…勿体ねぇよな?」
「…何が言いたい」
気の短い角都は飛段のまわりくどい言い方に苛立ち、結論を急かす。
「だからよォ、いつものバイトで死体運ぶときみたいに、アジトまでこの女担いで走ったらいいんじゃね?」
そんな荷物みたいな扱い嫌に決まってるじゃないですかとアオイは喚くが敢え無く受け流される。
「……お前の言う事には一理ある。珍しく頭を使ったな飛段」
「だろ?」
褒められたと思い上がる飛段は、ニンマリと年に似合わぬ無邪気な笑みを見せる。しかしそれは次の一瞬で崩れ去った。
「だが、お前如きが俺を利用しようなどと浅はかな考えに及んだ事に……俺は今非常に腹を立てている」
口数が少なく、声に生気が無い角都はいつだって怒っている様に見えるが、自分から"腹を立てている"と宣言するくらいなのだから相当なものなのだろう。
「自分で言ったことだ、自分で責任を取れ。いいな、飛段」
日が沈むまでに連れて来い。と言い残し角都は消えた。
実際には消えた訳では無いのだろうが、少なくともアオイには消えた様に見えたのだ。