第21章 探偵、美術館へ行く/沖矢、コナン
「車、出していただいてありがとうございました。」
「こちらこそ、チケットありがとうございました。」
「さくらさん、またね!」
いつもの如くマンションの下に車をつけてもらう。
上がってお茶でも、と言おうとしたのだが視界の端に見覚えのある黒い車を捉えた。
あの車の持ち主であるジンは多少なり後ろ暗いところのある人だ。正義感の塊のようなコナンくんと鉢合わせるとややこしいことになるに違いない。
2人をまた誘うのは今度にしようと決めて、じゃあねと手を振った。
◻︎
「ボウヤ、さくらさんのことなんだが。」
彼女をマンションに降ろした後、2人きりの車内で沖矢は口を開いた。
格好こそ沖矢のままだが、口調は赤井のそれに戻っている。
彼が赤井としてコナンに何かを進言する時は事が深刻である場合が多い。
自然と身構えてしまう。
「さくらさんがどうかした?」
「どうも君の”隠し事”に興味があるらしい。ボウヤのことだから大丈夫だとは思うが、一応忠告しておくよ。」
コナンはハンドルを握る沖矢の横顔を見つめた。
変装のマスクの下の表情は読めないが、その声に揶揄いの色は一切含まれていない。
「分かったよ、ありがとう赤井さん。」
「彼女の観察眼もなかなか侮れないからな。用心するに越したことはないだろう。」
「そうだね、気をつける…。」
コナンは先ほど別れたばかりのさくらの笑顔を思い出して、すぐにかぶりを振った。
「大丈夫だ、俺がまだここにいられるのが一番の証拠…。」